不妊治療の技術者である胚培養士(エンブリオロジスト)ってまだまだ謎が多い存在ですよね。
そんな胚培養士は日々どのような事に悩み、どのような日常を過ごしているのか知っていただけるように、今回は胚培養士あるあるをピックアップして解説していきたいと思います。
1.受精卵や卵子凍結の際に指先を液体窒素で火傷しがち
現在の受精卵や卵子の凍結融解には液体窒素が必須です。
近年では超急速ガラス化法によってガラス化凍結することが一般的です。
ガラス化法にて凍結融解後の生存性や成長を維持するためには、急速な温度変化が必要となります。
すなわち細胞が不安定になる温度域を一気に駆け抜けることが必要となるのです。
そのため胚培養士(エンブリオロジスト)は受精卵や卵子を凍結デバイスに載せた後、一気に液体窒素に浸け込みます。
その際に勢い余って自分の指先まで液体窒素に突っ込んでしまうことはよくあります。
しかし、だからと言って手袋をして行うのは操作性が悪くなりますので、素手で行うしかありません。
胚培養士は自分の指先を犠牲にして、受精卵や卵子の生存性を維持しようと努力しています。
(一瞬ですので大ケガにはなりません。ちょっと痛いだけです)
2.スッピンが平気になりがち
培養室内は基本的にクリーンルームですので、多くの施設ではメイク禁止です。
化粧品には種々の物質が含まれており、受精卵に影響を及ぼす可能性があるので培養室内では敬遠されることが多いのです。
スッピンは最初の頃は嫌がる人も多いですが長年働くうちに慣れて平気になる人が多いです。
女性胚培養士はメイクしたい気持ちやネイルしたい気持ちを抑えて仕事をしています。
3.休みの日に会うと誰かわからながち
仕事中は終始マスクと帽子を被っていますので普段は目元しか見えていません。
また、仕事中はスッピンですので、休みの日にたまに会うと誰かわからないという事態に陥ります。
普段見ている顔とあまりにも違いますので、最初は違和感しかないですが、お互い様ということで、特にその点には触れないことが多いです。
4.職業を聞かれた際に何て答えるか迷いがち
地元の友人に会った際や、ちょっとした世間話をする際に職業を聞かれることってよくありますよね。
胚培養士という職業は一般的にはメジャーではありませんので、職業を聞かれた際になんと答えればよいのか迷うことが多いのです。
臨床検査技師の資格を持っている胚培養士は、臨床検査技師と答える人もいるようです。
また、医療系や医療系技術者と答える人も多いですね。
その他、説明が面倒くさいので、OLや会社員と答える人もいるようです。
私自身は医療系の技術者と答えることが多いですが、そうすると「検査技師?放射線技師?理学療法士?」のように追及されるので結局は説明せざる負えないことになってしまいます。
しかし、説明したところで「なんかエロいね」「こんな所で下ネタ言わないで」と言われてしまうことも多々あります。
胸を張って「胚培養士!」と言えるくらい、メジャーで誇れる職業になるといいですね。
5.外で仕事の話をして下ネタと勘違いされて引かれがち
胚培養士仲間と外で食事などをしていると「精子」「受精」「性交」などというワードを連発してしまいますので、周りにいる人が引いていることがあります。
また、友人に職業の説明をしている際や世間話をしているときでも普通にそのようなワードができてきしまうので、引かれることがあります。
引かせるつもりは微塵もないのですが、これはもはや職業病ですね。
6.目と腰が悪くなりがち
胚培養士という仕事は、常に顕微鏡と向き合っている職なので、目が悪くなる人が多いのが現状です。
悪くならなくても、目の疲れや頭痛、肩こりといった顕微鏡を覗くことによる症状をもっている人は非常に多いです。
また顕微鏡を覗く際はずっと同じ姿勢ですので、腰を痛める人も非常に多いのです。
今後は、各施設でこのような点のケアをしてくれるようになると、もっと働きやすくなるんですが、難しいようですね。
7.不妊治療受けるの早くなりがち
胚培養士だけではなく不妊治療施設で働いていると、毎日多くの患者さんを目にしているためか、結婚してから不妊治療に進むスピードは非常に速いと思います。
やはり、年齢が一番重要という事を毎日実感している結果なのでしょう。
それか胚培養士という職業はストレス、精神的な重圧が厳しい職ですので、不妊の人が多いのでしょうか。
私の知り合いの胚培養士でも、子供ができなく、ずっといろいろな妊活を行っていましたが、胚培養士を辞めたら直ぐに妊娠したという人も複数います。
8.太陽みられなくなりがち
施設にもよりますが、多くの施設では朝一番から採卵が始まりますので、朝早くから出勤しなくてはなりません。
また顕微授精が夜までかかることも少なくありませんし、業務が終わってから自己啓発的に技術的な練習、日進月歩の生殖医療の勉強、学会活動の準備などで帰るのが遅くなることは日常茶飯事です。
さらに培養室内は紫外線から受精卵を守るために窓がなく、外が見えないのが普通です。
休憩時も着替えるのが面倒くさいので、外には出ず院内で過ごすことが多いです。
そうなると日が上りきる前に出勤し、日中は窓のない培養室で仕事をし、日が沈んでから帰るという生活になります。
その為、太陽を見る機会が少なく、たまに早く帰れるときは太陽が眩しく不思議な感覚になります。
普通のことなのですが、少し贅沢しているようにも感じます。
9.学会誌たまりがち
生殖医療に関連する学会や研究会は非常に多いです。
日本生殖医学会、日本受精着床学会、日本卵子学会、日本IVF学会、日本臨床エンブリオロジスト学会、米国生殖医学会、欧州生殖医学会などが代表的でしょうか。
その他にも生殖医学会の地方部会、レーザーリプロダクション学会、不妊カウンセリング学会、人類遺伝学会、アンドロロジー学会、生殖発生医学会など生殖関連の学会や繁殖生物学会、発生生物学会、分子生物学会など基礎の学会に入会している胚培養士も多いでしょう。
その他にも小さな研究会や企業の開催するセミナーやシンポジウムも非常に多いです。
多くの胚培養士はこれらの学会の複数に所属したり、学術集会やセミナーに参加することが多いのですが、これらの学会が発行している雑誌や要旨集を全てに目を通すのは非常に大変です。
これらの雑誌を読みたいのですが、なかなか時間がなく溜まっていくばかりなのです。
最近では紙での発行を辞めWebでの配信に切り替える学会も増えましたが、個人的にはWebになると逆に見ないことが多いですね。紙だと嫌でも目に入りますからね。
あと生殖学系の学会は正直、同じような学会が多いですし、同じ演題を複数の学会で発表している人もいます。
そのため、1つ2つの学会に集約して欲しいものです。それだけで胚培養士の労力はかなり軽減されるでしょう。
10.他施設の胚培養士の動き筒抜けがち
胚培養士という職業は非常に狭い業界です。
そのため近隣施設や、有名施設の胚培養士の情報が直ぐに広がります。
特に多いのは「〇〇クリニックの●●さん辞めたらしいよ」「〇〇クリニックの●●さん〇〇病院に引き抜かれたらしいよ」「あそこの培養室、3人一気に辞めたらしいよ」などです。
大学の研究室から多くの胚培養士を輩出しているところもありますので、研究室つながりで色んな施設の情報が入ってきて、意外と胚培養士が色んな情報を持っていることも多いのです。
11.インキュベーターに手を合わせがち
胚培養士は顕微授精などをおこなったあとは、培養環境を維持する以外できることはありません。
そのため、顕微授精が終わった後にインキュベーター(培養器)に手を合わせて無事に受精するように、上手く発生するように祈ります。
特に特殊な症例やこれまでの治療で上手くいかなかった症例の場合は、そういう光景はよく見ます。
さいごに
今回は胚培養士あるあるを書いてきました!
これを読んで胚培養士がどんな人たちなのか知っていただけたら幸いです。
胚培養士について詳しく知りたい人は以下の記事を読んでみてくださいね。
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コメント
私も10年選手の培養士ですが共感できます。
ただ凍結は手袋付けてやってますよ~
培養士室外で会うとわからないのは本当です。むしろ看護師さんもわからない