いざ不妊治療を始めようと思っても、数ある不妊治療施設の中から何を見てどのように決めればいいのか困っていませんか。
もし自分に合っていない施設を選んでしまうと、貴重な時間やお金を無駄にすることになります。
この記事では不妊治療を受ける病院の選び方や気を付けるポイントを不妊治療施設で約10年働いている不妊治療の専門家が徹底解説します。
1.病院選びの重要性
不妊治療はどこでも同じ治療を受けられる訳ではありません。
通常の保険診療は医師の腕の差はあれども基本的にどこでも同じ治療を受けることができます。
しかし、不妊治療は自由診療であり施設によって方針・治療法・治療費・レベルは様々です。
例えるなら、保険診療はコンビニ、自由診療はラーメン屋さんとイメージしてみてください。
コンビニは日本全国でほとんど同じものを同じ値段で購入することができますよね。
しかし、ラーメン屋さんは、まず醤油・豚骨・味噌・塩のようにいろいろなお店がありますよ。さらにチェーン店もあれば個人のお店もありますし、もっと言えばファミレスのメニューにもあります。
また小綺麗な店から、活気のある店や頑固親父の店もあります。
何が言いたいかと言えば一口にラーメン屋さんと言ってもどこでもいい訳じゃないですよね。不妊治療施設も同じということです。
卵巣刺激の方法や受精卵の培養方法も病院によって違います。グループでいくつもの病院を運営しているところもあれば、地域密着で個人経営の施設もあれば、総合病院の中の婦人科の中で行っているところもあります。
また病院とは思えない綺麗な施設もあれば、やたらにこだわりの強い医師がいる施設もあります。
そのため、もし自分に合っていない施設を選んでしまうと、貴重な時間やお金を無駄にすることになります。
不妊症にとって加齢は一番の天敵です。そのため時間を無駄にしてしまうことは、一番あってはならないことなので、病院選びは非常に重要と言えます。
2.病院の選び方
まず、不妊治療を受けるのであれば不妊治療専門の施設や大きな病院の中にリプロダクションセンターのように不妊治療専門のセンターがある施設を受診することをおすすめします。
なぜなら不妊治療に携わる医師や胚培養士の技量やノウハウは経験数によって培われるものであり、例えば街の産科の病院で片手間に行っている施設より不妊治療を専門に行っている施設の方が圧倒的に多くの症例を経験していると言えるのです。
現在、日本産科婦人科学会に「体外受精・胚移植に関する登録施設」として認められている施設は620施設以上あります。
しかしその中身は年間1000件以上採卵を実施している施設から10件程度しか行っていない施設まで様々です。
そうなると技術の差も歴然です。
以下では病院選びの際に気を付ける点を選び方ごとに解説します。
2-1.病院ホームページで選ぶ
まず、受診エリアの不妊治療実施施設をピックアップしましょう。
「地域名 不妊治療」のような検索ワードでもヒットしますし、日本産科婦人科学会のウェブサイトの検索ページから調べることもできます。
いくつかピックアップした施設のホームページを実際に見て自分に合った病院を選んでいきましょう。
見るポイント
・アクセスの良さ
本格的に不妊治療が始まると週に何回も通う可能性があります。
そうなった時に家や職場から遠い、車を置けるところがないとなると非常に不便です。
・自分が望む治療を行っているか
病院ごとに方針が異なります。まずホームページからこの病院がどのような方針で行っているのか読み取りましょう。
具体的に1つは卵巣の刺激方法です。
自然周期や体に優しい刺激で1周期に1個の卵子を取るのか、それともホルモン剤を打って1周期に複数個の卵子を取ることを重視しているかです。
1周期に1個の卵子を取る場合、1周期あたりの体力的・経済的に与える負担は少ないと言えます。しかし1回の採卵で妊娠する可能性は非常に少なく、何度も採卵を繰り返す可能性があります。
1周期に複数の卵子を取る場合は、1周期あたりの体力的にも経済的にも負担は大きいです。しかし1回の採卵で多くの受精卵が得られれば、受精卵を凍結しておき、複数回の胚移植を実施することが可能です。もっと言うと1回の採卵で複数の子供を得ることも可能です。
妊娠に加齢は大敵ですので、少しでも若いうちに多くの受精卵を残しておくという点では後者を選ぶべきですが、仕事をなるべく休みたくない・できるだけ注射をしたくないというのであれば前者の考え方の施設を選ぶべきです。
・診療日・診療時間
どうしても仕事を休めないという人は土日・祝日の診療を行っているかどうかも大きなポイントとなるでしょう。施設によっては年中無休を売りにしている施設もあります。
他にも早朝診療や遅くまで診療を行っている施設もあります。
自分のライフスタイルに合わせた病院を選ぶことが大切です。
しかし、医療者側からすれば診療時間ではなく、中身で選んで欲しいと思いますが、受診する側からすれば大きなポイントですよね。
気を付けるポイント
・治療周期数
上述したように治療数は非常に大きなポイントです。治療数が多いほど経験豊富と言えます。
しかし、卵巣刺激の方法によって採卵周期数は変動します。
具体的にいうと、1周期に1個だけの卵子をとることを目的としている施設の場合、1回の採卵で妊娠する可能性は低いので、採卵回数は必然的に多くなります。
逆に1周期に複数個の卵子を取ることができれば、1回の採卵だけで治療を完了できる可能性があるので採卵回数は少なくなります。
刺激や採卵手技としてはホルモン剤を投与する方が難しいですし、取れる卵子の数が多い方が体外受精、培養や凍結に関する経験は多いと思われます。そのため、単純に採卵周期数のみで技術力を測ることはできません。
・治療成績
多くの施設のホームページには治療成績を載せています。
良い成績をみると、通ってみたくなりますよね。
しかし、ここにも気を付けるべき点があります。
例えば妊娠率を見た場合、何をもって妊娠としてカウントしているかどうかを見なければいけません。
妊娠率の分子が尿中や血中のhCG(市販の妊娠検査薬と同じ原理)を確認しているのか、胎嚢(赤ちゃんのもとを包む袋)をエコーで確認しているのか、胎児心拍をエコーで確認しているのかによって異なります。
もちろん後ろに行けば行くほど、分子は小さくなるので妊娠率は低くなります。
逆に言えば尿中のhCGで妊娠としてしまえば、一見妊娠率は高くなります。
そのため、複数の施設の治療成績を見比べるなら、妊娠率の分子が同じなのかよく見なくはいけません。
また妊娠率でもう一点気を付ける事があります。
それは受精卵がどのステージの段階で移植されているのかという事です。
施設によっては胚盤胞まで育たないと移植しないというところもあります。
胚盤胞しか移植しない場合、妊娠率が高いのは当然です。
その背景には受精卵が胚盤胞まで成長せずに、移植さえできずに治療を終結した方がいることを理解しなければいけません。
しかし、体外の培養環境は完全なものではなく、早いうちにお腹に戻した方がよいという考え方があります。それが初期胚移植で胚盤胞まで育つ前に移植します。
妊娠率は下がりますが、体外でうまく育たない方には有効な方法です。
私自身も体外で胚盤胞には育たないが、初期胚移植で無事妊娠された方をたくさん見てきました。
すなわち、初期胚移植をしている施設の妊娠率は見かけ上では低く出ます。
ホームページに提示されている妊娠率が、胚盤胞移植のみなのか、初期胚移植のみなのか、両方が混じっているのかによってデータの見方はずいぶん変わってきます。
このように成績を高く見せようと思えば色んなことができてしまうのです。
残念ながら日本では同じ方法で集計された各施設の治療成績は公表されておらず、各施設が独自の計算で出しています。
そのため治療成績だけを見て施設の良し悪しを判断するのは非常に難しいと思われます。
2-2.口コミサイト・掲示板で選ぶ
最近では不妊治療に関する多くの口コミサイトや掲示板なんかを目にします。
そういったものから情報を得ることもできます。
良い点
・客観性がある
病院のホームページは基本的にその施設の売りや良い点しか書かれていません。
しかし口コミサイトは一般ユーザーが実際の経験をもとに書き込むので、客観性があり良い点だけではなくウィークポイントなども知ることができます。
・質問ができる
迷ったときに質問できることもこのようなサイトで選ぶメリットと言えるでしょう。
病院選びで必ず同じ悩みを持っていた人がいるはずです。
その人がどのような判断をし、どのような結果になったのか知ることができれば問題解決において非常に有益になります。
気を付ける点
・書き込みが一般ユーザーとは限らない
基本的に書き込みは匿名です。その書き込みが本当に一般ユーザーの経験をもとに書かれているとは言えません。
私が聞いたことがある話ですと、真偽は不明ですが、ライバル施設の悪評を流すためにプロを雇って書き込みをさせているなどというものもあります。
逆に、自施設の良い評判を一般ユーザーになりすまし記載することもできます。
・書き込み者の結果次第で内容が変わる
例えば医師の対応が悪かったとしても、最後にその書き込み者の結果(妊娠)さえ出れば、良いことを記載するでしょう。
逆にどんなに医療者は頑張っても、疾患があり不妊治療が上手くいかなかった場合、不妊治療施設のせいにして、悪いことを記載するかもしれません。
そうなってしまうと、本来の良し悪しではなく、自分が上手くいったかどうかで書き方が左右されてしまいます。
そのため、匿名の書き込みサイトの情報は良いことも悪いことも参考程度に受け取ることが重要です。
しかし、匿名ではなく身近に不妊治療を受けた人がいて、直接意見を聞ける場があれば、非常に有益な情報になると思われます。
2-3.説明会で選ぶ
ホームページや口コミサイトなどから、興味のある施設を絞ったら、実際に説明会や見学会に足を運びましょう。
説明会には選ぶ側にその施設の特色を説明するという側面と、逆にこういう人はここの施設に向いてないから他を探した方がいいですよという牽制の側面もあります。
良い点
・直接見られる
いざ通い始めると不妊治療も人と人とのやり取りが多いです。
その前に直接、施設長や事務スタッフの対応を見られるのは非常に有益です。
ここで、施設やスタッフの雰囲気が合わないと思ったら迷わず受診をやめるべきです。
・自分と同じ境遇の人を見られる
説明会では自分と同じ境遇の人が多く集まります。
実際に言葉を交わすことは少ないでしょうが、それは非常に励みになります。
気を付ける点
・良い点しか言わない
ホームページと同じで基本的に自施設の良い点しかいいません。
それは当然で不妊治療施設も患者が集まらないと経営が成り立ちません、これは宣伝活動なのです。
・ホームページに記載されている内容と重複する
基本的に特色や方針はホームページに記載されています。それらを見たりして勉強すればするほど内容が重複しており退屈かもしれません。
説明会はあくまでもスタッフや施設の雰囲気を確認するものと捉え、病院選びの最終チェックと思うとよいでしょう。
3.まとめ
・病院選びは非常に重要で、この時点から不妊治療は始まっている
・不妊治療施設といえども経験の差は歴然である。
・自分のライフスタイルにあった施設を探す
・ホームページに書かれている治療成績は比較が難しい
・口コミサイトは客観性があるが、すべてが信憑性があるとは限らない
・説明会では施設やスタッフの雰囲気を見る
コメント
そもそも不妊治療のために病院に行くことにハードル感じるのですが、すぐにでも治療始めるべきかを自分で判断する基準はありますか?