妊活や不妊治療について調べると最近「AMH」という言葉をよく耳にしませんか。
それと同時に「卵巣予備能」や「卵巣年齢」という単語も一緒によくでてきますよね。
でも実際「AMH」と「卵巣予備能」「卵巣年齢」の関係ってよくわからないと思っていませんか?
不妊治療の医師でも正しく理解できていない場合があります。
正しく理解することで今後の人生設計の手助けになるかもしれませんよ。
本記事では不妊治療の専門家がAHMについてわかりやすく解説します。
本記事を書いている私は普段からAMHを用いて仕事をしている不妊治療の専門家ですので信頼性の担保になると思います。
1.AMHとは
AMHとは「Anti-Mullerian Hormone:アンチミューラリアホルモン」の略で日本語では「抗ミューラー管ホルモン」とも呼ばれます。
このホルモンは元々男性において、胎児期に精巣内にある精子の形成を支持するセルトリ細胞という細胞から分泌されます。そして、子宮や卵管などの女性生殖器の原型であるミューラー管を退行させる(男性には子宮や卵管は不要であるため)という働きがあります。
最初はこのミューラー管を退行させるホルモンという意味で「抗ミューラー管ホルモン」と名付けられました。
その後、女性でも分泌されていることがわかりました。
女性においては、卵巣内の顆粒膜細胞という卵子形成を支持する細胞から分泌されています。特に性成熟後のホルモンの刺激によって成長を始めた卵胞(卵子を包んでいる袋)の顆粒膜細胞から分泌されているため、加齢によって卵胞の数が少なくなるとAMHの値も低下し、閉経時にはほとんど検出されなくなります。
現在では女性においてよく使われる言葉になりましたね。
特に不妊治療や妊活をしている方はよく目にしますよね。
卵巣の年齢がわかるのよね?
実際には少し違うんです。
では次にAHMで何がわかるのか解説します。
2.卵巣予備能とAMH
AMHは成長途中の卵胞から分泌されているので、血中のAMHを測定することで、成長中の卵胞の数を予測することができます。
さらに卵胞は原始卵胞と呼ばれている眠っている卵胞から一定の間隔で成長を開始させているので、成長中の卵胞の数が把握できると、あとどれくらい原始卵胞が残っているのかを間接的に予測することができるのです。
この残っている原始卵胞の数を「卵巣予備能」と呼びます。
1つの卵胞には、1つの卵子が入っているので、あとどれくらい卵巣の中に卵子が残っているかを表す指標となります。
「卵巣予備能」の指標となるものは、AMH以外にもいくつか存在しています。
まず1つ目はFSH(卵胞刺激ホルモン)です。しかしFSHは値が上昇したときにはすでに不妊治療を始めるには手遅れに近い状態であるという問題があります。また、生理周期のどのタイミングで測定するかによって数値が変動してしまいます。
その点AMHは個々の卵巣に残っている原始卵胞の数を予測でき、なおかつ生理周期内で数値がほとんど変動しないという特長があります。
2つ目はインヒビンBです。インヒビンBは卵胞の発育によって一度増加し、その後減少するという複雑な動きをします。そのため卵巣予備能の予測が難しいのですが、対してAMHは成長中の卵胞数に比例した数値が得られるので、予測が容易です。
3つ目はエコーによる成長中の卵胞のカウントです。しかし成長中の卵胞には大きさが2mm程度のものもあり、そういった小さい卵胞はエコーではカウントが難しいという問題があります。
一方AMHは、採血した後は機械がその値を測定してくれるので簡単に値を知ることができます。
以上のような点でAMHが卵巣予備能の優れた指標となることがわかるのではないでしょうか。
しかし、AMHは不安定な物質なために、測定誤差が約15%あると言われています。
そのため測定のたびに値が若干上下します。しかし卵子は増えることはありませんし一定のスピードで減少していますので、この若干の上下によって一喜一憂しないことが必要です。
3.卵巣年齢とAMH
AMHは老化によって減少するのは事実です。しかし、20代の若い人でも検出感度以下である0という値になる人もいますし、逆に40代でも10ng/mlを超える人もいます。
すなわち個人差が非常に大きく、一概に年齢によってAMHを予測することはできないのです。
また健康な人でも個人差が大きいため正常値や基準値を決めることは決してできません。
感覚的に「年齢の割に少し低いかもね」という会話はできますが、「この年齢でこの数値は異常です」とは言えないのです。
そのためAMHを「卵巣年齢」と捉えている考え方は少し間違えています。
そもそも基準値がないのにAMHの値で卵巣年齢を測定することはできないのです。
もし、AMHを測定した際に医師から「あなたの卵巣年齢は〇歳です。」と言われたらその医師はAMHを正しく理解できていないかもしれません。
しかし、年齢から予測できることもあります。
それは「卵子の質」です。これだけは年齢とともに一様に低下します。
間違えていけないのは「AMH=卵子の数」「年齢=卵子の質」であり「年齢≠卵子の数」や「AMH≠卵子の質」という事です。
すなわち年齢が若いからと言ってたくさんの卵子が残っているかは別の話であり、AMHが高いからといって質のいい卵子がたくさん残っているという訳ではないという事です。
じゃあ何のために測定するの?
では次からは妊活や不妊治療をするにあたって、なぜAMHを測る必要があるのかを解説します。
4.妊活・不妊治療とAMH
なぜ妊活や不妊治療を始めたらAMHを測った方がよいのでしょうか。
まず、AMHを測定することでどれくらいの期間、妊活や不妊治療を行えるかを予測できます。
40代でAMHが0に近いことはよくありますが、20代や30代でAMHが0に近く早発閉経が疑われることがあります。
この場合は、急いで不妊治療を行わなければいけません。
しかし、0に近い場合でなければ少々低くても、ちゃんと排卵されていれば自然妊娠可能ですし、不妊治療を行うにあたってもタイミング法や人工授精で妊娠することもできます。
AMHを卵巣年齢のように理解していると、いざAMHが低いときに体外受精を行わなくては妊娠しないように感じますが、これは勘違いです。
しかし、どれくらい不妊治療を行えるかの指標にはなるので、早めにステップアップするなどの目安にはするべきでしょう。
またAMHが10ng/mlに近い場合などは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が疑われます。
PCOSの場合、hCGなどによる排卵誘発剤を用いると卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を引き起こし、腹水や胸水蓄留、血栓症などを引き起こす可能性があります。
そうならないように年齢やAHMを指標にして卵巣の刺激方法や排卵誘発の方法を考慮することが必要です(これは医師の仕事ですが)。
5.妊孕性温存とAMH
妊娠する能力のことを「妊孕性」といいます。
例えば「がん」などの治療で放射線治療や抗がん剤治療を行うと、卵巣機能を著しく低下させる可能性があります。
最近では術前の卵巣機能の指標としてAMHを測定することが有用であると報告されています。
術前にAMHを測定し、「治療を行うことでこのくらいAMHが低下します」と治療後の妊孕性の説明があることが今後求められるでしょう。
抗がん剤治療や放射線治療における妊孕性の温存には、現在「卵子凍結」「受精卵凍結」「卵巣組織凍結」が行われています。
またがん以外でも例えば子宮内膜症の1つであるチョコレート嚢胞の除去手術においても妊孕性が著しく低下します。
それは原始卵胞は卵巣表面に主に存在するので、チョコレート嚢胞を摘出してしまうと原始卵胞ごと、ごっそり取っていってしまうのです。
その結果、明らかなAMHの低下が報告されています。
このようにチョコレート嚢胞の除去やがん治療を行う前にAMHを測定し適切な説明を受け、妊孕性温存を考慮することが望まれます。
しかし、がん治療はあくまでも原疾患の治療が最優先で、その治療が遅れないということが大原則ですので、緊迫する状況の場合は妊孕性の低下について説明が十分ではない場合があります。
6.おすすめ書籍
日本の不妊治療におけるAMHの第一人者、浅田義正先生の書籍「よくわかるAMHハンドブック」を紹介します。
この本は女性を診るすべての医師向けに書かれている本ですが、医師ではなくても理解できるくらいわかりやすく書かれています。
現在、日本でこの書籍以上にAMHに特化して書かれているものはないのではないでしょうか。
AMHに興味のある方は一読の価値はあると思います。
7.まとめ
・AMHはミューラー管を退行させるホルモン
・AMHは卵巣予備能の指標となる
・AMHは年齢とは相関しない
・AMHは卵巣年齢という考え方は少し異なる
・AMHは不妊治療を行える期間と考える
・AMHが0に近い場合と高すぎる場合は注意
・AMHは妊孕性温存の目安となる
コメント