男の子が欲しいや女の子が欲しいと思うことはどの時代でも当たり前ですよね。跡継ぎが欲しい、一緒にショッピングをしたい、育てるのが楽そう、1人目とは別の性別がいいなどその理由はカップルによって異なります。
しかし、本当に産み分けは可能なのでしょうか。
本記事では男女の産み分けの真実について解説します。
この記事を書いている私は大学・大学院で発生学や繁殖学を学び、現在は不妊治療施設で約10年従事している生殖の専門家ですので、信頼性の担保になると思います。
1.性別の決定
1-1.性別が決まる原理
赤ちゃんの性別の決定には精子が関わります。
ヒトの場合、46本の染色体という設計図を持ちます。
その染色体の内2本は性染色体という性を決定する染色体であり、XXだと女性、XYだと男性になります。
この性染色体はお母さんから1本、お父さんから1本受け継ぎます。
お母さんは元々X染色体しか持っていませんので、性決定には関与しません。
しかしお父さんはXとYの2種類の染色体を持っており、減数分裂という精子を作る機構によって1つの精原細胞(精子の基になるなる細胞)から2個のX染色体を持っている精子と2個のY染色体を持っている精子、合計4個の精子を作り出します。
すなわち、同量のXまたはY染色体を含む精子が作られ、そのどちらかがX染色体を持っている卵子と受精することで男女が決まるのです。
精子形成や減数分裂についてはこちらの記事で説明しているので参考にしてください
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1-2.男女比
前述の通り、XとYの精子の数は同量です。
そのため、基本的には男女比は1:1になるはずです。
そうよね。
しかし実際には出生する子供の割合は男の子のほうが少しだけ多いのです。
え!そうなの?どうして?
これはY染色体を持っている精子の方が運動がよい、耐酸性がある、寿命が長いなどいろいろ言われていますが、科学的にはよくわかっていません。
もしそうなら、もっと極端に男児が多くなるはずですからね。
面白いのは、産まれた後は男の子のほうが死亡する率が高く、生殖年齢頃になると男女比はほぼ同じになります。
生殖年齢を過ぎると、女性の方が寿命が長いので、女性の方が多くなります。
男は種をつけたら不要ってことか・・・
なんとも言えませんが、そのように考える研究者もいるのは確かですし、種によっては交尾後に死んだり、メスの栄養になるために食べられたりする種もいますので、そのような考え方もできるかもしれませんね。
2.よく行われる男女の産み分け方法
ここからは一般的によく行われる産み分け方法について解説します。
2-1.パーコール法
不妊治療施設で成熟精子を選別するために行われる方法です。
これは成熟精子と未熟な精子の密度の違いを利用して、密度の高いとされる成熟精子のみを遠心によって回収する方法です。
恐らく、不妊治療で最も使用される精子の処理法と思われます。
この方法をどのように産み分けに使用するというと、成熟精子の回収と同様にX染色体を持っている精子とY染色体を持っている精子の比重(密度)の違いを利用して、X染色体を持っている精子のみを遠心で選別するという考え方です。
日本産科婦人科学会では、パーコール処理の安全性に問題ないとは言っていますが、目的外使用を容認している訳ではないというスタンスです。
そのためオープンに、パーコール法で産み分けやっています!という施設は少ないですが、行っている施設も多くあるでしょう。
ウシなどの動物種では比重の差が大きいため、この差を用いて効率的に回収することができます。
パーコール法以外でもフローサイトメーター法を用いることで90%以上の的中率があり、繁殖が99%人工授精によって行われる産業動物であるウシにとって非常に有効的です。
しかし、このような比重を用いる方法はヒト精子では効果的ではありません。
それはヒト精子のXおよびY染色体を持っている精子の比重の差が小さいことがあげられます。
実際、私の知人でパーコール法による産み分けを行っている施設で働いている胚培養士に聞いた話では、的中率は約50%ということです。
男女の2択で50%というと、その効果は全くないという事になります。
また、パーコール法はどこの施設でも成熟精子の回収という目的で使用されていますので、これが男女の選別につながるなら、不妊治療施設で産まれてくる子供は女児の方が圧倒的に多くなるはずですが、そんなことないですよね。
私が働いている施設でも、男の子の方が少し多いくらいです。
病院では最もらしい説明をするかもしれませんが、科学的な根拠はほぼないことと、余計な処理をすることで妊娠の機会を逃す可能性があることを理解して行いましょう。
2-2.産み分けゼリーやサプリメント、性交のタイミング
男の子にはグリーンゼリーというゼリーとリンカルというサプリメントを用いて膣内の環境をよりアルカリ性に保ちます。
そうすることでY染色体を持つ精子にとってよい環境となり、男児が得やすいという考え方です。
さらに、排卵日にはアルカリ性に傾くと言われているので、排卵日に性交を行うことでより効果的と言われています。
逆に女の子にはピンクゼリーを用いることで、膣内の環境をより酸性寄りに保ちX精子にとてもよい環境となり女児が得られやすいとい考え方です。
こちらはアルカリ性に傾く排卵2日前に性交を持つことでより効果的と言われています。
これらは全て『いわれている』というレベルの話で、科学的な根拠はありません。
経口のサプリメントや食べ物で膣内のpHが変化するとは思えません。
また精液のpHは約8-8.5ですので、精子が元気に動けるのはアルカリ状態です。無理やり酸性状態に傾けることで妊娠率は低下する可能性があります。
2-3.産み分けカレンダー
中国式カレンダーによる産み分けは数え年と妊娠月を縦と横にとり、交差する点で性別を決めます。
700年以上前に作られたもののようです。昔は王家や宮家のみに使用が許されていたようです。
同じ方法でブラジルの出生記録から作られたブラジル式カレンダーというものもあります。
自動的に旧暦や数え年に換算してくれ、カレンダーに当てはめてくれるサイトもありますので、興味のある方は見てみてもよいのではないでしょうか。
もちろん科学的な根拠はありませんので、自己判断で行いましょう。
2-4.神頼みやジンクス
一番古くからある産み分けは神頼みやジンクスによるものですよね。
全国の神社にも産み分けのお願いができるところや、性別を占えるところもあります。
また迷信やジンクスとして有名なものは以下のようなものがあります。
男の子が欲しい場合
・男の子の写真を寝室に貼る
・ブリーフをはく
・男性が濃い目のコーヒーを飲む
・寝室を北向きにする
・満月の夜に性交する
女の子が欲しい場合
・寝室に女の子の写真を貼る
・トランクスをはく
・男性がバナナを食べる
・寝室を南向きにする
などなど色々なものがあります。
もちろん科学的な根拠はありませんが、ストレスを感じない程度に試してみてもよいのではないでしょうか。
3.産み分けの真実【重要】
ここまでいくつかの産み分け法を紹介しましたが、科学的に根拠があるものは1つもありません。
はっきり言いますが・・・すべて都市伝説レベルなものと捉えてください!
そうなのかー。読んでてなんかそんな気したわー。
逆に科学的に根拠のあるものってあるの?
あります!
→キタ――(゚∀゚)――!!
それは、胚の遺伝的検査、すなわちPGTを行う事です。
しかし、現在の決まりではPGTを産み分けに使うことは禁止されています。
ガーン(´;ω;`)
そのため、結論を言えば胚の遺伝的検査をすることで産み分けは可能ですが、決まりとしてできないというのが真実で、それ以外の産み分け方法は全く意味がないとまでは言えませんが、科学的根拠のないものになります。
そのため、科学的根拠がないものを、特に妊娠率を下げる可能性があることを一所懸命やる必要はありませんので、パートナーと楽しみながら、ストレスを感じない程度に行うことがよいでしょう。
4.産み分けを売りにする不妊クリニック
巷には産み分けを売りにしている不妊クリニックもあります。
私見ですが、そのような施設は信頼できないと思っています。
なぜなら、不妊クリニックはあくまでも病院な訳で、病院というのは患者の希望を聞くだけではなく、科学的・医学的に意味のある事をしなければいけないと思うからです。
ましてや、不妊クリックで妊娠率が低下する恐れがあることをするなんて本末転倒です。
もちろん産み分けがしたいという気持ちは古くからあるわけで、その気持ちを否定する気持ちはありませんし、よくわかります。
しかし、現代は普通に子供を授かれる時代ではなくなってきました。
それを考えると、妊娠率を下げる可能性がある方法で産み分けを試みるのはどうなのでしょうか。神頼みやジンクスに頼る程度に収めるべきだと思ってしまいます。
逆に産み分けを売りにする不妊クリニックは商売として不妊治療を行っている施設が多いので、施設選びの際には気を付けていただきたいです。
5.まとめ
・男女の性別は精子の染色体で決まる
・XとYの染色体を持っている精子の割合は半分半分
・科学的根拠のある産み分け法は行われていない
・巷の産み分け方法には妊娠率を低下させるものもある
・科学的根拠があるのはPGTのみだが、認められていない
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